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オリンピックにおけるハンマー投の歴史

 2000年シドニー・オリンピックより女子ハンマー投が始まって今回が5大会目となる。

初代オリンピックハンマー投優勝者はポーランドの故・カミーラ・スコリモフスカである。その年の世界ランキング1位記録は7568だったが、オリンピックでは17歳のスコリモフスカが7116で初代優勝を勝ち取った。当時から女子ハンマー投選手の体は大きかったが、その動き(技術)は男子選手と比べると未成熟であった。

 当時、世界の女子ハンマー投は歴史の長い男子と比べると記録の進展が顕しかった。そうしたところから、私の娘、由佳もオリンピック出場に可能性を持ったのであろう。由佳は、1998年、大学4年生のシーズンオフから円盤投と並行しハンマー投を始め、なんとその5年後の2004年に6777を投げアテネオリンピックの代表となった。その後は当然のように世界の女子ハンマー投は記録を伸ばし続ける。

魅力を感じる投擲テクニック

 記録が伸びていく一方で、私にとっては、技術的に魅力を感じない選手が多かった。様々な投擲のタイプがあるが、たとえば、正確なフットワークもしないまま強引に回転スピードを上げて投げ出す選手、スムーズに大きく回転に入っていくことのできないような変則的スウィングをしている選手、また回転中の重心が高く最大限のハンマーの加速ができないような体勢で回転し投げる選手などである。

そのようなことから、ある選手が余計に目立っていたのであろう。それは2008年北京オリンピック女子ハンマー投予選を、観戦に来ていた由佳とスタンドから見ていた。そこに男子ハンマー投世界記録保持者のユーリー・セディフ氏、世界歴代2位のセルゲイ・リトビノフ氏や息子広治らの動きに匹敵する魅力ある選手を見つけたのである。その選手がアニータ・ヴォーダルチク選手であった。

ただしその時点ではまだ改良すべきところはあったが、その投擲に彼女の将来豊かなものを感じたのである。その後ずっと注目している中、昨年8085の世界新記録を北京世界選手権で投げた。そして、迎えたリオ・オリンピックである。

彼女にはまだ二つの改良しなければならない点があったのだが、その一つの"振り切り"が良くなっている。まだ完璧とは言えないが、身体左方向に向けハンマーを大きく移動させながら振り切っている投擲を見て、これは"振り切り"が改良されたと思った。案の定、8229の世界新記録を投擲した。
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世界記録が更新された最大のポイント

 さて、ここからはハンマー投の選手や指導者に向け、ヴォーダルチク選手の投擲動作の良いところを、分かりやすく説明したい。少し専門的な内容となるが、勿論興味ある方は引き続き読んでいただきたい。まずいつも念頭に置いておかなければならないことは、ハンマー頭部の投げ出す瞬間のスピード(投射スピードとも初速度)で飛距離が決まるということであり、これは絶対的なものである。もちろん投射角度や投射高さらに飛んで行ったハンマーには空気抵抗もかかるが、それは飛距離にほとんど影響しない。

 およそ投射時に秒速30mのスピードをハンマー頭部に与えると82m~85m飛んでいく。秒速30mは時速にすると120㎞弱になる。仮に秒速29mにハンマー頭部のスピードを落とすと75mくらいになってしまう。いかにハンマー頭部の投射時のスピードが大事であるかを理解していただき、彼女の投てき動作を下記にまとめて説明したいと思う。

●スウィングから各回転そして振り切りまで、でんでん太鼓のごとく体幹部から横振りにハンマー頭部を大きく振って加速している

●回転に入り振り切りまで腕がひものような状態となってハンマー頭部と一体化して加速しているので、投射時には自然に大きな回転半径となりハンマー頭部の加速をさらに高める

●各回転から振り切る直前まで身体重心が低いため、回転スピードかなり高まった状態でも安定感がある
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可能性を秘めた有力選手

 さて今回のオリンピックでは、まだこれから伸びて行くであろうと思われる動きの良い選手がいた。それはイギリスのソフィー・ヒッチョン選手で、7454を投げ、銅メダルを獲得した。IMG_4626
彼女のコーチはトーレ・グスタフソン氏で広治のトレーナー兼コーチであったことから私との付き合いも長かった。

 ロンドン・オリンピックではヒッチョン選手も交え広治、グスタフソン氏と私で食事もしたこともある。広治や私の投擲技術の考え方がグスタフソン氏にも理解され、それがヒッチョン選手の指導に繋がっていることが分かるので嬉しくなる。この動きを掴んだヒッチョン選手はこれから大きく伸びて行くことであろう。
 勿論これらは、ぜひ日本選手にも理解して実践していってもらいたい。
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