2016年11月

オリンピック選手になるための条件Ⅴ

「感覚」は動きの効率性(技術)のレベルアップのため重要である。前回に引き続きこの「感覚」を詳しく述べさせていただく。

 

息子、広治のハンマー投げ技術の基礎は10歳前につくられた

1984年夏、当時文部省の在外研修員としてカリフォルニア州立大学ロングビーチ校に1年間滞在していた時のことである。特に、土日は私のハンマー投げの練習に息子広治と娘の由佳がよくついてきた。
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    写真1:CSUロングビーチでの練習、息子の広治と由佳が後方にいる。

広治は興味があるのか、時々小さな軽いハンマーを投げ遊んでいた。
しかしその動きはフットワークもできていないままの投げである。10歳近くであったことから、正しい動きを教えようと思い聞いたところ「やる」と云うことで指導を始めた。
それもグランドではなく、アパートの共同洗濯場の横にあった広いコンクリートの敷かれた場所で、ハンマーを持たせず指導した。軸足の踵から指の付け根に移動していくフットワークに合わせ、伸ばされた両腕と組んだ両手の先にある仮想ハンマーの動かし方(空ターン)を16時間、それを3日続けた。

その後ハンマーを投げさせてみると、まだ粗削りではあるものの、形は出来ていた。
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   写真2:3日間の指導の後の広治の回転、それまでとは全く異なる良い動きとなった。

         これが本人の感覚の基礎となり、後に創意工夫した技術とトレーニングにより
         オリンピックそして世界選手権の優勝者となる。

 

技術性の高い種目ほど、はじめは動きをよく知った指導者に習うべきである

ゴルフやテニス、その他多くのスポーツもそうであるが、初めに基本的な動作をよく理解している指導者に習うことである。
効率の悪い動きをはじめに覚えてしまうと、それを直すのに多くの期間を費やすことになる。

高校生や大学生であっても、初めてハンマー投げを行う選手の方がまだ先入観が無いだけに指導しやすい。
由佳の円盤投げは高校から、ハンマー投げは大学4年生の秋から始めた。
特にハンマー投げは、この年齢になっても先入観が無いだけに、早く高度な技術を覚えることが出来る。
由佳は、その5年半後のアテネ・オリンピックにハンマー投げに出場した。

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写真3:由佳、21歳からハンマー投げを始めて、5年半でオリンピック出場を決める

1973年、当時私の所属していた大昭和製紙に入社してきた円盤投げの川崎清貴選手に徹底した技術指導を行った。本人も技術改良の強い意欲があり、6年後の1979年に60m22を投げた。この記録は現在も日本記録として残っている。私もそうであったが、強い意志と考え方の柔軟さがなければ初めに覚えた効率の悪い感覚を正すことはできない。 
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写真3:川崎清貴選手と、国内の遠征先にて

12歳くらいまでに、できるだけ多くの感覚を得ることである

各種スポーツ種目の基本的動作も、12歳位までが早く身につく。
このためにも初めの基本的動作はよく知った指導者に習うことである。

また他の多くの感覚づくりのエクササイズも、早く行うことが望ましい。
それでは、いつからかというと、私は歩けるようになったら始めてもよいと思う。
勿論、無理させず出来そうなものから始める。

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写真4:木にコウモリのようにぶら下がっているのが広治と由佳。

親はハラハラしているが、子供たちは今まで培った多くの感覚から

できそうだと判断しているからやるのである。


それではどのようなものを行うかというと「平衡感覚」「リズム感覚」「空間での感覚」「前後左右への回転感覚」「各種投げの感覚」「模倣する感覚」などを個々の能力に合わせたエクササイズを考え行う。
また78歳からはこれらと並行し、各種競技も少しの期間でよいので多く行っていく。

このように10年以上かけ、楽しみながら感覚づくりをしていく。

感覚は目に見えないものであるが、将来専門種目の技術に関わってくる重要なものである。

次回は、オリンピック選手になるための条件のまとめを行う。

オリンピック選手になるための条件Ⅳ

前回までは「体力」「体型」と個々の持つ素質の説明をしてきた。
今回は三つ目の「感覚」を考えていきたい。

 

「感覚」は「体力」「体型」より重視して考えなければならない

一般的に運動感覚がよいとされるのは、ある運動を行った時スムーズにバランスよく身のこなしが出来ることを言う。これは、多くの運動を経験して個々の動ける範囲を広げた状態にしておかなければならない。

多くの運動経験がなければ動く範囲は狭められ、仮に恵まれた体力や体型があっても生かされない。逆に、優れた運動感覚を持った者は、体力、体型に少し劣っていても世界で通用する選手になる可能性がある。
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  写真1:息子、広治の高校3年生時。187㎝で75kg弱の細い身体で

一般用7.26kgのハンマーを6630投げる。

 

そしてこの豊富な運動感覚の獲得は、すべてのスポーツに関係してくる。

 

運動感覚はいつ、どのようにして身につけるのか

 

アメリカの医学者・人類学者のスキャモン(18831952)の発達・発育曲線は大変興味深い。神経系にこの運動感覚もあるわけだが、その発達は12歳くらいでピークに達するとされる。

私も、選手としてまた指導者としての経験から、12歳くらいまでに豊富な運動感覚を身につけておくべきであると考える。

1980年、私は中京大学に赴任した。ゼミですぐに始めたのが「幼児の運動感覚の養成」である。近くの小学校の体育館を借り、マット運動やメデシンボールによる各種の投げなどを中心に、保育園児や幼稚園児などを対象とし毎週一度感覚の訓練を行った。その中には息子(広治)や娘(由佳)もいた。

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写真2:娘、由佳の保育園時代、運動に興味を持ち活発となる。

 

これらは決してトレーニングではなく、感覚の訓練であって、ある程度できるようになれば、他の種類の運動をしていく。それは、できるだけ多くの種類の運動を経験させることに目的があったからだ。

 

運動感覚とはどのようなものか

自転車に乗れるようになれば、1つの感覚が出来る。また同じ自転車であっても曲芸的な乗り方が出来るようになれば、さらに異なる感覚は増えることになる。そしてこれら感覚は長く残る。

もちろん、自転車だけでなく、多くの遊びや多くの運動を経験することにより多くの感覚は身につくことになる。 
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写真3:私が左、海・山・川で遊びまわっていた。

 

私が高校に入り、ハンマーを初めて投げた時である。小学校低学年のころ、遊びで友達の手首を持ち、自ら回転して相手の体を振ったことがある。その時の感覚を基にハンマーを投げた。

 

また同じく高校に入って始めた円盤投げである。子供のころよく川や海の水面に向けて、平らな小石の側面を擦り投げ、水を切る遊びをした。円盤を振り出す時、その感覚をもって投げると、円盤にはスピンが掛かり、円盤の飛行を安定させ飛ばすことが出来た。当時1.5kgの円盤(現在の日本の高校用円盤は1.75㎏)であったが、約一か月後には立投げで40mを超えた。

感覚とは上記のように新たな運動を行う時、以前獲得した感覚を組み込んで応用していくことが多くある。

 

次回はまた「感覚」についての重要な内容について、続きを書きたいと思う。

オリンピック選手になるための条件Ⅲ

素質の見極めが、自己の最も伸びて行く競技スポーツを見つける手助けとなり、将来オリンピックに繋がる道ともなる。その素質、「体力」「体型」「感覚」の「体力」は前回終わった。今回は「体型」について考えてみたい。

 

陸上競技選手の体型は、それぞれの種目によって異なる

 

陸上競技の種目数は、男子24種目、女子23種目と多い。走る種目には短距離、中距離、長距離そしてマラソンがある。また競歩や跳躍、投擲などがあり、それぞれの種目で要求される体型は異なる。

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 写真1:長距離選手と投擲選手では、競技の求められる体型に大きな違いがある。

 

特に、細くて体重の少ない長距離選手やマラソン選手と、筋肉量が多く体重の多い投擲選手とでは、その体型は全く異なる。

また、同じ走種目でも殿筋や背筋の発達した短距離選手と、身体全体が細い長距離選手とでもその体型も異なりを見せる。

跳躍種目の中でも微妙に異なるが、それは投擲種目についても同じことが言える。

中・長距離やマラソンは、同じような体型であることから、種目の変更が楽に行われる。

 

世界トップレベルの短距離選手の体型

 

これは私の持論であるが、走競技は両脚を使い身体重心を運ぶものである。その時、身体の前面に重心があると、一歩前に振り出した膝に重心が乗りやすくなって結果、地面反力を高め推進力を上げることが出来る。この身体重心が身体の前面にあるのは、オリンピックなどに出場している短距離選手を見ると分かる。それは殿筋や背筋の発達した体型にある。

 

これは細い体型の、中・長距離選手やマラソン選手なども、良い走りをしている選手は、身体重心が身体の前面にある。また短距離であれば中間疾走時にあたるが、走技術の工夫により、身体重心を身体の前面に持ってくることは可能である。このような体型と走技術の工夫により身体重心は身体の前面にきて、前方へ自動的に動き出すような走りとなる。当然、走競技は個人差もあるが、身体重心の上下の位置も地面反力に大きく影響してくる。

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 写真2:短距離選手の体型。背筋や殿筋の発達が見られ、身体重心は身体の前面にある

 

また「てこ運動」を考えた場合、骨に付着している腱の位置が、力の発揮に優位に働くとされているので、そこも関係してくるかも知れない。

しかし、この殿筋や背筋の発達した体型が、水泳競技になると不向きになると思われる。このような体型は、水の抵抗が多くなるのかも知れない。水泳選手に、陸上競技の短距離選手のような殿筋や背筋の発達した選手がいないことからも分かる。

 

体型は競技力に大きく影響する

 

日本のトップを目指すのであれば、それぞれの競技種目で活躍している選手たちの体型を調べ、世界を目指すのであれば、世界でトップレベルの競技種目の選手達の体型を調べるとよい。

 

ただし、成長期の子供たちが、専門種目を選ぶ上においては難しい。それは、将来の身長、体重がその時点で分からないからである。

 

しかし、体型が競技力に影響する以上、よく考え専門とする種目を選ばなくてはならない。

 

オリンピック選手村の食堂で見た多くの競技種目のアスリートたち

 

オリンピック選手村のダイニング(食堂)は各国の選手で賑わう。私が出場したオリンピックでも、ダイニングを利用していた。色々な選手がいたが、一際目立つと感じたのが、バスケットボール選手だった。男子選手は2mを超える者が多く、中には220㎝以上の選手もいる。それは、長身選手の方がバスケットボールに有利に働くからである。
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 写真3:写真は、娘の由佳が2010年広州アジア大会に出場した際の
 選手村ダイニングの様子。オリンピックでも同様の雰囲気である。
 各国、各競技の選手が競技会に合わせて食事を取るため24時間オープンしていることが多い。


また体操は、逆に大きな選手はいない。高い難度の技を表現できる、少し小さな体つきの選手が多い。女性は150㎝を切ってくる選手もいる。

皆それぞれの競技種目に適した体型の選手達の集まる場なのである。

 

北京オリンピックでの中国の金メダルは51個

 

さて2008年の北京オリンピックで、中国は51個と断トツの金メダルを獲った。しかし、陸上競技や水泳は金メダルが取れなかった。その内訳は、金メダル4個以上だけの競技をピックアップすると、重量挙げ8個、飛込み7個、体操7個、ライフル射撃5個、卓球4個である。多くの金メダル獲得した競技は勿論であるが、その他金メダル取った競技種目も含め考えると、それぞれの競技種目に向いた体型であったと言える。

 

次回は私が最も重視している感覚について考えを述べる。

室伏重信profile
◆生年月日 1945年10月2日

◆出身地  静岡県沼津市

1989年 中京大学体育学部教授

2011年 中京大学体育学部名誉教授



◆主な競技実績

陸上競技 男子ハンマー投 オリンピック代表、アジア大会5連覇

日本選手権10連覇

自己ベスト記録 75m96㎝ (日本歴代2位)



1966年 第5回アジア競技大会(バンコク) 2位

1970年 第6回アジア競技大会(バンコク) 優勝

1972年 ミュンヘンオリンピック 8位

1974年 第7回アジア競技大会(テヘラン) 優勝

1976年 モントリオールオリンピック 11位

1978年 第8回アジア競技大会(バンコク) 優勝

1980年 モスクワオリンピック

*日本代表 日本のボイコットにより出場ならず

1982年 第9回アジア競技大会(ニューデリー) 優勝

1984年 ロサンゼルスオリンピック 14位

1986年 第10回アジア競技大会(ソウル) 優勝

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