強化へのアプローチⅥ

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前回は競技スポーツの刺激は、トレーニング刺激であって、その刺激には「強・弱」と「種類」があると説明した。

今回はこの種類について説明する。

 

「刺激の種類」について

 

動作の効率性については良し悪しがあって、ここではその良し悪しを種類とする。

効率の良い動作と悪い動作では、パフォーマンスに大きく影響することから、効率の良い動作に適応させる必要がある。

 

そのためにはまず、適応させようとする効率の良い動きを見つけなければならない。しかし動きが高度になればなるほど見つけることは難しい。

 

このため私は、それぞれ専門種目の動きに熟知した指導者に習うことを勧める。それは専門種目を始める時がよい。なぜならば基礎となる良い感覚を初めに獲得できるからである。その後、そこから個々が発展させていけばよい。

 

さてこの種類を投てき選手で考えてみると、練習内容は投げ、ダッシュ、ジャンプ、ウエイト・トレーニングなどである。この投てき選手が、長距離選手と主に長い距離を走るだけの練習を長期間行った場合どうなるであろうか?

 

当然投てき選手の練習とは種類が異なるため、長距離走は強くなるであろうが、しかし投擲選手としての能力は低下する。

 

上記の例は分かりやすいものである。しかしより専門的で高レベルな動作に於いては、僅かな種類の違いでも記録に大きく影響してくる。このため高レベルの技術が必要とされるためニュートンの法則を念頭に置いて技術の向上を計らなければならない

さてトレーニングの原理・原則について少し触れておく。 


 トレーニングの原理は①過負荷(オーバーロード) ②可逆性 ③特異性
 
トレーニングの原則は①全面性 ②意識性 ③漸進性 ④反復性 ⑤個別性

 

とあるが、これらについては多くの指導者や選手が知っていることと思われるので、ここでは説明を控える。

 

私自身も選手時代、これらを学び実践した。しかし、生物の一般的特徴の中の(刺激に反応する)からヒントを得て刺激に反応を続けると刺激に適応することを考えついた後は、この原理・原則がよく理解でき、さらにそれ以上のことも知った。

まさに「木を見て森を見ず」から脱したことにより、これまで説明してきた考えに至ったのである。

 

ここまで6回にわたり強化へのアプローチとして、法則を基に考え実践していくことの勧めを書かせていただいた。これは羅針盤を見ながら航行すると同じように、強化の方向を見失わず実践に結びつけられると思ったからである。

 

指導者そして選手の皆様に於いては、これを基に多くの方法を展開していただきたい。そして成果の繋げていただければ幸いである。

強化へのアプローチⅤ

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前回より「生物の一般的特徴」の中の「刺激に反応する」が高まる、強くなる要素に繋がり、この「刺激に反応」を続けると「適応するものも出てくる」と説明した。今回はこれを競技スポーツの中で考えてみたい。

 

体力を高めたい、効率よい動きを身につけたいと思うならば、それが可能な刺激を与え適応させればよいことになる。スポーツでの刺激はトレーニングということになるが、このトレーニング刺激には「強・弱」と「種類」がある。

 

「刺激の強・弱」について

ウエイト・トレーニングを例に強・弱を考えてみると分かりやすい。

強・弱については、重量と回数そして可動域と時間が関係してくる。

 

重量においては軽いものは弱く、重いものは強い。回数は少ない方は弱く、多い方は強い。

可動域については、少ないものは弱く、多いものは強い。時間は短いものは弱く、長いものは強いこととする。

ただしウエイト・トレーニングは重量、回数、可動域、時間などの組み合わせであるため、そのトータルで強弱を判断していく。

そして適応を目的に行い、適応したならばその上の強い刺激を与え適応させる。これを続け個々の極限までレベルアップをしていく。

 

しかし強すぎる刺激は注意しなければならない。

 

それは重量が極限であったり回数が多すぎたり、大きな負荷の掛かるような動作を行う場合である。このような強すぎる刺激を与えると、過労状態に陥りまた故障にも結びつく。さらに長期間この強すぎる刺激を与えた場合、慢性疲労状態を起こし神経系もよく反応しなくなり、さらにはバーンアウトの恐れも出てくる。これらは競技スポーツすべてに於いて当てはまるので、注意して掛からなければならない。

 

特に気づかず強すぎる刺激を与えてしまうのは、精神力の強い選手に多い。また指導者が、選手の疲労の度合いを知らないため、強すぎる刺激を与えてしまう場合もある。

 

だが実際のところ、強い刺激か強すぎる刺激かの判断は難しい。さらに同じトレーニング・メニューであっても2日、3日と続くと、疲労度の関係で強すぎる刺激に変化する場合もある。このようなことから個々の疲労状態を考え、また強すぎる負荷を避けるなどの対策をもって行っていく必要がある。

 

次回は「刺激の種類」について説明していく。

強化へのアプローチⅣ

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前回まではどうしたら高まるか、あるいは強くなるのかについて、ニュートンの法則を基に説明してきた。これは地球上の重力下で行われるスポーツの動作において、より効率のよい動きの発見を促すためのものであった。

今回は高める、強くなるといった法則のもう一つを紹介する。これは人に焦点をあてたものである。

 

2、生物の一般的特徴

 

私が選手を終えるころであったであろうか、「人間の生物学」(菊山栄ら・培風館)その一節に興味を抱いた。そこには生物の一般的特徴が記されていた。その一般的特徴とは

(1)自発的に運動すること

(2)刺激に反応すること

(3)外界から物質を取り入れてそれを変化させてエネルギーを得たり成長すること

(4)生殖によって同種の個体を新しくつくりだす

この4つである。

 

私はこの中の(2)刺激に反応するが高める、強くする、レベルアップしていく法則と確信した。長年アイディアを出しながら実践に移し練習してきた私であったからこそ、刺激に反応することが、レベルアップに繋がると強く感じたのである。

 

人は5つの感覚器官(眼・耳・鼻・舌・皮膚)によって外界の刺激を(視・聴・臭・味・触)として反応する。

 

また生きるための厳しい環境の中でも、その刺激に慣れなければ(適応しなければ)、命を落とすことにもなりかねない。多くは生きるための厳しさに慣れることを何千年、何万年と繰り返してきた。結果、これが人間だけではなく他の生き物の進化に繋がっていると思う。

この慣れることが「刺激に対しての反応を続けると、適応するものも出てくる」と私は結論づけた。

刺激に反応し続けると適応するは個々が感じ得るもので、それは肉体面や精神面において数えきれないほどある。

 

気温の変化がよい例である。日本の11月頃の最高気温が15度では寒いと感ずるが、最高気温の10度以下が続いた1月~2月の15度は暑く感じる。これは寒さに適応したからである。適応する過程において厳しさを感じても、適応してしまえばそれを感じなくなる。

 

この「刺激への適応」の法則を用いれば、人の精神も肉体も「このようになりたい」と思うことが実現できるはずである。そうであれば、先ずこのようになりたいと云う目標を強く持つことである。

 

次回は、この刺激について深く考えていく。

室伏重信profile
◆生年月日 1945年10月2日

◆出身地  静岡県沼津市

1989年 中京大学体育学部教授

2011年 中京大学体育学部名誉教授



◆主な競技実績

陸上競技 男子ハンマー投 オリンピック代表、アジア大会5連覇

日本選手権10連覇

自己ベスト記録 75m96㎝ (日本歴代2位)



1966年 第5回アジア競技大会(バンコク) 2位

1970年 第6回アジア競技大会(バンコク) 優勝

1972年 ミュンヘンオリンピック 8位

1974年 第7回アジア競技大会(テヘラン) 優勝

1976年 モントリオールオリンピック 11位

1978年 第8回アジア競技大会(バンコク) 優勝

1980年 モスクワオリンピック

*日本代表 日本のボイコットにより出場ならず

1982年 第9回アジア競技大会(ニューデリー) 優勝

1984年 ロサンゼルスオリンピック 14位

1986年 第10回アジア競技大会(ソウル) 優勝

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